
工程表を引くこと自体に困っている現場は、実はそれほど多くありません。人を消耗させているのは、いったん決まった工程が動いたあとの組み直しです。天候が崩れ、資材の納期がずれ、前工程が押す。そのたびに後続の予定を引き直し、関係する協力会社に一社ずつ連絡を入れ、その日程で職人を確保できるかを確認して回ることになります。この一連の作業は担当者の記憶と電話に依存しているため、他の人が代わることも、あとから経緯をたどることも難しいまま残ります。
この組み直しの部分にAIを使えないかというご相談を、設備工事や専門工事の会社からいただくことが増えました。結論を先に書くと、建設業の工程調整でAIが効くのは、工程を組む部分ではなく、工程が動いたあとに影響範囲を割り出し、変更を関係者へ伝え直す部分です。ただし、そこへいきなり手を伸ばすことはできません。案件の情報も、工程の進捗も、品質に関する問い合わせも、協力会社とのやり取りも、社内に散らばったままではAIに渡すものがないためです。まずこれらをデータとして一か所に集めるのが先で、AIはその上に載ります。
本稿では、なぜ調整の工数がそこに集中するのかを整理したうえで、大手ゼネコンが公表しているAI活用事例が中堅企業の答えにならない理由を確認し、調整業務を四つに分解して、AIに任せられる部分と任せてはいけない部分を線引きします。そのうえで、データ基盤の整備から始める具体的な進め方と、その過程で効果の測定がどう可能になるかをまとめます。
工程調整の工数は、決めるときではなく変わったときに発生する
調整業務の負荷は、工程表を作る回数ではなく、工程が変わる回数と関係者の数の掛け算で決まります。当初の工程表を引く作業は年に数えるほどですが、その工程が崩れる要因は、天候、資材の納期、職人の手配、設計変更、行政手続きと、現場が動いている限り途切れません。
規模の感覚をつかむために、私たちが支援先で伺っている範囲を挙げると、一つの現場には専門工事ごとの協力会社が十社前後、多いときはそれ以上、同時に関わっています。工程が一日動けば、その全社に対して変更内容を説明し、新しい日程で職人を確保できるかを確認することになります。一社あたりの連絡は数分で終わるとしても、確認の返答を待ち、確保できなければ別の日程を探して再度かけ直すことになるため、実際に消える時間は連絡の回数から想像するよりも大きくなりがちです。
さらに、変更は横に広がるだけでなく下にも降りていきます。一次の協力会社に伝えた内容が、その先の二次以降へ正確に届いているかどうかは、こちらからは見えません。伝えたはずの日程で人が来ない、あるいは前提の変わった図面のまま作業が始まるといった事態は、伝達の途中で情報が欠けたときに起こります。連絡した相手の数だけ確認の手間が増えるのではなく、その先の層まで含めて確からしさを担保しなければならない点が、この業務を重くしていると私たちは見ています。
厄介なのは、この作業がほとんど記録に残らないことです。誰にいつ何を伝え、どういう条件で合意したのかは担当者の頭と通話履歴の中にあり、引き継ごうにも渡すものがありません。工程が遅れた原因をあとからたどろうとしても、判断の経緯が残っていないため、次の現場への学びになりにくいという問題も生じます。属人化の話として相談を受ける課題の多くは、掘っていくとこの連絡と合意の記録が残っていないところに行き着きます。
残業で吸収する運用が、制度として成り立たなくなった
調整の遅れを担当者の時間外労働で吸収する運用は、制度の面から使えなくなりました。2024年4月1日から建設業にも時間外労働の上限規制が適用され、原則として月45時間・年360時間が上限です。
臨時的な特別な事情があって労使が合意する場合でも時間外労働は年720時間が限度となり、時間外労働と休日労働の合計についても単月100時間未満・複数月平均80時間以内に収める必要があります。災害の復旧・復興の事業に一部の例外はあるものの、通常の工事で残業を積み増す余地はなくなっています(建設業の時間外労働の上限規制(厚生労働省))。
もともと建設業の労働時間は他産業より長く、2023年度の年間の平均労働時間は2,018時間で、他産業より62時間ほど長い水準です。4週8休(週休2日)以上が導入されている建設技術者・建設技能労働者の割合も、公共工事で約3〜4割、民間工事では約1割強にとどまります(令和7年版国土交通白書(国土交通省))。
では人を増やして吸収できるかというと、そちらの見通しも厳しいのが実情です。同じ白書によると、建設業就業者に占める55歳以上の割合は36.7%と全産業平均の32.4%を上回る一方、29歳以下は11.7%と全産業の16.9%を下回っています(いずれも2024年時点)。調整に人を張り付ける前提のまま人員構成が入れ替わっていけば、業務は同じ人に集中し続けます。時間でも人員でも埋められない以上、調整業務そのものの形を変えるしかない、というのが現在の位置です。
大手ゼネコンのAI事例が、そのまま中堅の答えにならない理由
建設業のAI活用を調べると、大手ゼネコンの技術事例が数多く出てきます。竹中工務店は、ドローンで撮影した赤外線画像からAIが建物の外壁タイルの浮きを自動判定するスマートタイルセイバーを開発し、2021年に実用化しました。仮設足場の設置などにかかるコストの削減と、調査期間の短縮ができるとされています(竹中工務店ニュースリリース)。
清水建設は2026年5月に、クラウドカメラの映像を視覚特徴解析とマルチモーダルLLMを組み合わせたAIで解析し、山留め杭工事のマシンセット、削孔、H鋼挿入、モルタル注入という各段階を自動判定するAI施工管理システムを発表しました。複数のシステムに分散していた情報を一元化し、担当者が個別に手動修正していた負担を軽減する狙いも掲げられており、映像プラットフォームや工程管理ソフト、BIM/CIM共有クラウドを提供する3社との共同実証を経た取り組みです(清水建設ニュースリリース)。
後者は、本稿が扱っている情報の分散という課題に正面から向き合った事例です。ただし、施工箇所を撮影するカメラ群と複数の外部サービスを組み合わせ、それらを運用できる体制を整えて初めて成立する構成であり、現場の連絡が電話とメッセージアプリと個人のExcelで動いている段階の会社が、明日から同じ形を再現できる話ではないと私たちは考えています。効果についても、同社のリリースでは定量的な削減幅は示されておらず、実証実験で有効性を確認したという段階です。
もう一つ注意したいのは、こうした大手の発表を並べ直した、建設業のAI活用事例◯選といった型の記事です。私たちが本稿の準備で確認した範囲では、そうした記事に載っていた検査時間の削減幅を、発表元とされる企業の公式リリースまでたどれないことがありました。記事の数字をそのまま社内の稟議に持ち込む前に、一次情報にあたることをお勧めします。
中堅企業に必要なのは、カメラで現場を判定する技術ではなく、電話とメッセージアプリで流れている連絡そのものの再設計です。
調整業務を四つに分解すると、効く場所と着手する場所が違うと分かる
どこにAIを入れるかは、調整業務を工程ごとに割ってから決めます。私たちは、変更の検知、再合意の記録、影響範囲の割り出し、相手ごとの連絡という四つに分けて考えています。このうちAIが直接効くのは後半の二つで、前半の二つは、そこへ渡すデータを作る工程です。
| 工程 | よくある現状 | 位置づけ | 現実的な入れ方 |
|---|---|---|---|
| 変更の検知 | 現場からの電話や口頭報告。担当者が気づいた時点が起点 | データを作る(着手順1) | 案件と工程に紐づくデータベースを集約先に定め、そこへ記録が残る運用を先に作る |
| 再合意の記録 | 通話履歴と担当者の記憶 | データを作る(着手順2) | やり取りの要点を、案件と工程と相手に紐づけて集約先に残す。対応リードタイム等のログもここから取れる |
| 影響範囲の割り出し | 担当者が工程表と頭の中の依存関係を突き合わせる | AIが直接効く | 作業の前後関係を書き出しておけば、AIが変更の記録を読み取り、影響を受ける作業の候補を挙げられる |
| 相手ごとの連絡 | 十社前後へ個別に電話。伝える内容は相手ごとに違う | AIが直接効く | 相手の立場に合わせた連絡文の下書きを生成AIに任せ、人が確認して送る |
この四つのうち、担当者の時間を実際に食っているのは、影響範囲の割り出しと相手ごとの連絡です。ところが、その二つを動かすための材料を作るのは、変更の検知と再合意の記録の側になります。どの案件のどの工程がいつ変わったのかという記録がなければ影響範囲は計算できませんし、誰がどの範囲を担当し、前回どういう条件で合意したのかが残っていなければ、連絡文も書き分けられません。効果が出る工程と、最初に着手すべき工程は別だということです。
影響範囲の割り出しでAIに期待する役割は、工程を考え出すことではありません。この作業はあの作業が終わってからでないと着手できない、この納品物が届かないと次に進めないという前後関係の条件は、現場の担当者であれば説明でき、説明できるなら文字にもできます。AIが担うのは、記録された変更の内容を読み取り、この一覧と突き合わせて影響を受けそうな作業の候補を挙げるところまでで、どこまでを本当に動かすかは人が決めます。それでも、洗い出しの網羅性を人の記憶に頼らずに済むだけで、抜けによる手戻りは減らせると考えています。
相手ごとの連絡では、同じ変更でも、鉄骨の建方を担当する会社に伝えるべきことと、内装の会社に伝えるべきことが違います。入場の時間、搬入の経路、必要な人数、前工程の状態と、相手によって関心のある項目が異なるためです。変更内容と相手の担当範囲を渡して連絡文の下書きを作らせ、担当者が確認して送るという分担であれば、いまの生成AIで無理なく成立すると私たちは見ています。
いずれの場合も、作業の前後関係と、誰に何を伝えるべきかという判断基準を書き出す言語化が実質的な仕事量であり、AIの導入そのものは、そのあとに続く工程にすぎません。業務の手順と判断基準を書き出す作業がAI活用の前提になるという構造は、属人化の解消を扱った記事で整理した内容と同じです。
AIに渡してはいけない三つ — 交渉、優先順位、責任の所在
線引きを先に決めておかないと、現場の信頼を失います。私たちが、AIに渡すべきでないと考えている領域は三つあります。
一つ目は、職人を確保するための交渉です。急な日程変更を受けてもらえるかどうかは、その協力会社との関係の積み重ねと、相手側の事情で決まります。無機質な一斉通知で日程変更を伝えるようになった途端に対応の質が落ちた、という話は現場でしばしば聞きます。連絡文の下書きをAIが作ることと、その連絡を人が責任を持って届けることは、切り分けて設計する必要があります。
二つ目は、どの工程を優先するかの判断です。複数の現場で職人が足りないとき、どちらを先に埋めるかは、契約条件や取引先との関係、後工程への波及を含めた経営判断であり、記録されているデータの中に答えはありません。関連して、AIに工程表そのものを組ませられないかというご質問もよくいただきます。計画案を出させること自体は技術的に可能ですが、最初に着手する対象としては勧めていません。工程の優先順位が、いま挙げたような記録に現れない事情に左右される以上、出てきた案を人が全面的に見直すことになり、手間が減らないためです。
三つ目は、遅延の責任の所在です。AIが提案した日程で組んだから遅れたという説明は、発注者にも協力会社にも通用しません。提案は機械が出しても、決定は人が行い、その記録を残すという運用は崩さないことを勧めています。
何から手を付けるか — データを集めるのが先、AIはその上
最初にすべきなのは、AIツールの比較でも工程管理パッケージの選定でもなく、業務のデータを一か所に集めることです。私たちがお勧めしているのは、Airtableのようなノーコードのデータベースに、案件の情報、工程の進捗、品質に関する問い合わせ、協力会社とのやり取りをまとめて載せてしまう進め方です。品質の問い合わせを含めるのは、確認待ちの回答が工程を止める起点になりやすく、工程の変更と同じ場所で追えないと影響が見えないためです。現場からの一報が担当者個人の携帯電話とメッセージアプリと口頭報告に分散したままでは、何を自動化しようにも入力が揃いません。
既製のパッケージを先に決めないのも、同じ理由からです。工程管理システムを導入したのに調整の工数が減らなかったという話をしばしば伺いますが、その多くは、自社の業務に合わない器を先に固定したために、現場が既存のやり方と二重に記録することになり、肝心のデータが溜まらなかったという経緯です。ノーコードの器で先に業務を回し、必要な項目と運用が固まってから作るか買うかを判断する順番なら、この失敗は避けやすくなります。
この集約は、AIのための準備という以前に、それ自体で効きます。どの案件のどの工程がいまどの状態なのか、誰からどんな質問が来ていて、どれが未回答のまま残っているのかが一覧になれば、探す時間や聞き直す手間を減らせますし、担当者が休んだときにも他の人が状況を追えます。協力会社との情報連携も、まずは自社側の記録から始まります。相手はこれまでどおり電話やメッセージで連絡し、自社側でその内容を集約先に記録する運用であれば、相手の負担を増やさずにデータは溜まっていきます。
集約と並行して整えておくと効いてくるのが、作業量を共通の単位で測る物差しです。影響範囲を割り出すには、作業の前後関係だけでなく、その作業にどれだけの負荷がかかるかも分かっている必要があります。私たちが支援している設備工事会社の生産管理立ち上げの現場でも、最初に必要になったのはシステムでも人員計画でもなく、作業の負荷を共通の点数で表す指標でした。同じ作業でも条件によって手間が変わるため、担当者の感覚のままでは工程も人員も積み上げられないためです。
あわせて取りに行きたいのが、計画上の数量ではなく、実際にかかった工数です。やり直しや途中での変更といった現実は実績側にしか現れず、調整が必要になる原因の多くはこの差に潜んでいます。
AIを動かすのは、この基盤ができてからです。案件と工程と担当範囲が構造化されたデータとして手元にあれば、変更を起点に影響を受ける作業を洗い出すことも、相手ごとに書き分けた連絡文を用意することも、現実的な作業になります。役割分担で言えば、ノーコードのデータベースが記録の器を受け持ち、生成AIが影響候補の抽出と文面の下書きを受け持つ構成です。この順番を飛ばしてAIから入ると、参照すべきデータがないまま一般論を返す道具になってしまいます。自社の業務をAIに移していく過程で私たちが学んだ点は、外注していた業務をAIに移した記録にまとめています。
効果は、集めたデータの側から見えてくる
データを集約するもう一つの利点は、現状の数値がそこから自動的に取れることです。調整業務は成果が数字に表れにくく、担当者が費やした時間を後から正確に思い出すこともできません。ところが、質問や変更が起票された時刻と、それが対応済みになった時刻が記録に残っていれば、対応リードタイムは計算するだけで出てきます。特別に集計作業を起こさなくても、日々の記録の副産物として指標が手に入る状態になります。
私たちが最初に置くことが多いのは三つの数値です。一つ目は、変更や質問が起票されてから対応が完了するまでのリードタイムです。二つ目は、伝達の漏れや行き違いに起因した手戻りの件数で、人が来なかった、古い図面のまま作業が進んだといった事象を数えます。三つ目は、一度決めた変更をさらに組み直した回数で、これは影響範囲の割り出しが甘かったことの表れとして読めます。
この順番で進めると、AIを載せる前の数か月分が自然に現状値として残ります。効果を語ろうとした段階で導入前の数字がなく比較できない、という事態は、AI導入に限らずよく見かけます。私たち自身、社内の業務をAIへ移した際の効果測定を現在も続けており、削減できたと言い切るには一定の期間が必要だという立場を取っています。
まとめ
建設業の工程調整でAIが効くのは、工程を組む部分ではなく、工程が動いたあとに影響範囲を割り出し、変更を伝え直す部分です。要点を再確認します。
- 調整の工数は、工程が変わる回数と関係者の数の掛け算で発生します。時間外労働の上限規制と人員構成の変化により、人を張り付けて吸収する運用は成り立たなくなっています
- 大手ゼネコンのAI事例は、カメラ群や複数の外部サービスとそれを運用する体制が前提であり、中堅企業がそのまま採用できるものではありません
- 調整業務を四つに分けると、AIが直接効くのは影響範囲の割り出しと相手ごとの連絡、先に着手すべきは変更の検知と再合意の記録というデータづくりです
- 職人の確保交渉、工程の優先順位の判断、遅延の責任の所在は、人が持ち続ける必要があります
- 手を付ける順番は、ノーコードのデータベースへの集約、溜まった記録による現状値の可視化、そのデータを使ったAI活用です。集約の副産物として対応リードタイムなどの指標が取れ、AIを入れる前の現状値が自然に残ります
OptUpは、仙台を拠点にAI導入・業務改善・事業開発の実行支援を行うコンサルティング会社です。業務の棚卸しから、ノーコードでのデータ基盤の設計・実装、AIへの業務移行まで、動く仕組みを作るところまで伴走します。工程調整のどこに時間が消えているかを整理したいという段階のご相談も、お問い合わせからお受けしています。
よくある質問
工程管理システムを入れれば、調整業務は減りますか?
既製のパッケージを先に決めると、期待どおりにはなりにくいと考えています。自社の業務に合わない入力項目が残り、現場が既存のやり方と二重に記録することになって、肝心のデータが溜まらなくなるためです。私たちが勧めているのは、Airtableのようなノーコードのデータベースに、案件情報・工程進捗・品質に関する問い合わせ・協力会社とのやり取りを自社の業務に合わせて集約し、運用が固まってから作るか買うかを判断する順番です。
協力会社がITツールを使ってくれない場合は、どうすればよいですか?
相手に新しい操作を求めない形から始めることを勧めます。協力会社側は普段どおり電話やメッセージで連絡し、自社側でその内容を一か所に記録して整える運用であれば、相手の負担を増やさずに情報を集約できます。相手にツールを使ってもらう話は、自社側の運用が回り、参加する利点を具体的に説明できるようになってからで遅くありません。
AIに工程そのものを組ませることはできますか?
技術的には計画案の作成まで可能ですが、現時点でそこから手を付けることは勧めていません。工程の優先順位は、取引関係や職人の確保状況といった数値化されていない事情に左右されるためです。案件と工程と担当範囲がデータとして揃っていることを前提に、変更が起きたあとの影響範囲の割り出しや連絡文の作成といった、判断ではなく作業の部分から任せる方が、現場で使われる状態に早く到達します。
